平成25年4月6日

ベジタリアン

ここにT。 コリン キャンベルという米国の著名な栄養学者が書いた『葬られた第2のマクガバン報告』という本があります。
上・中・下3巻からなる合わせて千ページを越す大著です。
今回のコラムは、こにたんがこの本を読んでベジタリアンになったというお話です。
このキャンベル博士、生まれはバージニアの牧場の息子です。
卵とベーコン、ソーセージ、フライドポテトとハム、そして何杯もの全乳(未加工のミルク)といった朝食で育ち、そのような食事が大好きでした。
大学も農学部に進み、研究テーマはいかにして良質な蛋白質を家畜から生産するかというものでした。学位を得て大学で栄養学の研究を深め、学生を教えるようになってからも、「ベジタリアンは困ったものだ。」とかなんとか語っていたといいます。
しかし、強くたくましい体を作るには肉や牛乳が欠かせないと多くの米国人が信じていた当時にあっては、これもしかたありません。
研究者となってしばらくして、飢餓に苦しむフィリピンの子どもたちを助けるための計画が持ち上がりました。
キャンベル博士もその計画に参画し、いろいろと検討した結果、良質な蛋白質の供給源として、内陸部でも育てられるピーナッツに白羽の矢を立てました。
しかし、そこには一つ問題がありました。
ピーナッツに生えるカビにはアフラトキシンという発がん物質が含まれており、これが子どもの肝臓ガンを引き起こしていたのです。
そこでその対策を検討するため、キャンベル博士は同僚の学者とともにフィリピンに赴きました。そして、現地の医師から思いもよらない話を聞いたのです。
それは、フィリピンでは裕福な家庭の子供に肝臓ガンが多いというものです。
なぜ栄養的に満ち足りている裕福な家庭の子供に肝臓ガンが多いのか、栄養学者であるキャンベル博士には考えられないことでした。
ちょうどその頃、インドからある研究報告がキャンベル博士のもとに届きました。
ネズミに先の発がん物質であるアフラトキシンを与えながら20パーセントの蛋白質を含む餌と5パーセントの蛋白質を含む餌とで育てたところ、蛋白質20パーセントの餌で育てたネズミは全部癌で死んだのに対し、5パーセントの餌で育てたものはすべて2年ほどの天寿を全うしたというものでした。
これは、先のフィリピンでの話と符合するものですが、これまで蛋白質の有用性を信じていたキャンベル博士にとって到底受け入れがたいものでした。
蛋白質20パーセントの餌というのは、欧米人の蛋白質摂取量に近いものだったのです。しかしそこは研究者です。
そのような現象が指摘されている以上、調べないわけにはいきません。
その時からキャンベル博士のガンと蛋白質についての探求が始まりました。
本にはその研究の過程が詳しく述べられていますが、ここでは結論だけを示します。
まず、ネズミに発がん物質とともに10パーセント以上の蛋白質を摂取させるとガンが増殖し、蛋白質の量をそれより少なくするとガンの成長が止まるかあるいは小さくなるというものでした。しかも、蛋白質の中でも植物性のものは、たとえ20パーセントを与えても、ガンを成長させることはなく、これは動物性蛋白質特有の問題でした。
さらに、動物性蛋白質の中では、牛乳に含まれるカゼインという蛋白質が、ガンを最も大きく成長させるものでした。
すなわち、普段なにげなしに食べている、しかも健康に良いとされてきた動物性蛋白質が、摂取量によっては100パーセントの確率でガンを成長させていたのです。
次は、この結果が人間に当てはまるかどうかです。しかし、人間に発がん物質を与えて実験するわけにはいきません。
そこで計画されたのがチャイナ・プロジェクトです。
中国では周恩来がガンだったこともあり、地域別・種類別のガンの発生率が詳しく調べられていました。そのデータを見ると、中国では地域によってガンの種類や発生率にかなりの差があることがわかりました。
ガンの種類によっては、100倍も違う場合があります。
発生率のばらつきが少ないものの要因を見つけるのは困難ですが、これだけ発生率に違いがあると、その要因を探るのは比較的容易であると考えられました。
そこで、中国各地の比較的人口の移動の少ない村を60箇所程度選び、各村から100人の男女を選定して食べ物やその他の環境要因、ガンを含む病気の発生率が調べられました。調べた項目は8千にもおよぶといいます。
そして、それら要因とガンを含む疾病の発生率との関係が詳細に検討されました。
その結果、まず病気に対する予測因子のうち最も注目すべきものが血中のコレステロール濃度であることがわかりました。
血中のコレステロールは心臓疾患のみならず、多くのガンの罹患率との間に高い相関がみられたのです。
そしてこの血中のコレステロールを高めるのが動物性食品であり、逆にこれを低下させるのが植物性食品であることがわかりました。
また植物性食品に含まれる食物繊維とビタミンCをはじめとする抗酸化物質は、消化器系のガンを防止することもわかりました。
さらに、中国では最も活動的でない人でも、平均的な活動をしている米国人よりも、体重1kg当たりのカロリー摂取量が30パーセントも多く、それにもかかわらず体重は20パーセントも軽いことがわかりました。これは植物中心の食事が、体重として蓄積しにくいことを意味していました。またこれが、中国で肥満や糖尿病の罹患率が少ないことの原因でした。
加えて大きな体格と蛋白質の摂取量には相関があるものの、これを動物性蛋白質として取る必要はなく植物性のものでかまわないこともわかりました。
続いてこの本の中巻では、チャイナ・プロジェクトを含め、栄養やその他の因子と病気の関係を研究した700以上の論文をもとに、それぞれの病気がどのような原因で発生するかが述べられています。以下に結論だけを簡単に記しておきます。
なお、以下に出てくる「プラントベースでホールフード」の食事とは、野菜や果物、穀類、芋類、豆類などをあまり加工せず食べるというものです。ここで「あまり加工せず」とは、例えば米を白米にすると玄米が持っていた多くの栄養素が失われ、特定栄養素のみが体に吸収されるのが問題だということで、料理をあまりしないということとは違います。
○ガン・・・遺伝がガンに与える影響はわずか3パーセントである。
乳がんを例に取ると、動物性の食物を多くとると初潮の年齢が早まり、しかも妊娠可能期間が長く女性ホルモンの血中濃度も高くなる。
女性ホルモンと乳がんの発生には明確な相関があり、結果的に動物性食品を多くとると乳がんになりやすい。米国人の乳がんの罹患率は中国人の5倍である。
さらにダイオキシンやPCBなどの有害化学物質は脂肪に蓄積され、動物性食品とともに体内に取り込まれ、ガンの原因になる。体が有害化学物質にさらされる原因の9割以上は、動物性食品を摂取することからきている。また、動物性蛋白質の摂取がガンを成長させることは前述した通りである。
肉、動物性蛋白質、砂糖を多く摂取し、穀物の摂取量が少ない国では、結腸ガンの罹患率が高い。乳製品を多くとる男性は乳製品をあまりとらない男性に比べ、転移性あるいは致命的な前立腺ガンのリスクが4倍となる。プラントベースでホールフードの食事は、これらのガンを減らす。
○心臓病・・・最大の危険因子は血中のコレステロール濃度である。米国の男性が心臓発作で亡くなる率は、中国人の17倍である。
ネズミに動物性蛋白質を多く含む餌を与えるとコレステロール値を劇的に上昇させ、反対に植物性蛋白質を含む餌を与えるとコレステロール値を劇的に下げる。食生活をプラントベースでホールフードのものに変えるだけで、心臓疾患の発生率を劇的に下げ、症状を改善できる。
○肥満・・・米国の成人の3人に2人は過体重である。
肥満は心臓病、糖尿病、高血圧、脳血管障害等さまざまな病気につながる。
食生活をプラントベースでホールフードのものに変え、適度な運動をすることで肥満は解消できる。
中国本国では肥満の人が少ないのに、中国から米国に移住した人には肥満が多いのを見ても、米国における食生活に問題があることは明らか。
ただし、プラントベースでも砂糖、白米、白い小麦粉など精製されたものは、体に吸収されやすいのでだめ。
玄米やそのままのコーン、芋類がいい。
また高度に加工されたものは、何が入っているかわからず、またミネラルなどが失われているのでだめ。プラントベースでホールフードの食事ならいくら食べてもかまわない。
これは、植物性のものは、カロリーが体温として消費されやすい、すなわち代謝率が高く、体に蓄積されにくいためである。なお、ネズミの実験では、動物性蛋白質20パーセントの餌を与えたものよりも、動物性蛋白質5パーセントの餌を与えたもののほうが活動的であることが観察されている。
この活動性がますます体重を減らすことになる。逆に言うと、動物性の食事は体重を増やし、活動性を鈍らせ、ますます体重を増やすという悪循環をもたらしている。
○糖尿病・・・動物性の蛋白質、動物性の脂肪からのカロリー摂取が多いと糖尿病の罹患率が上がり、炭水化物からのカロリー摂取が多いと糖尿病の罹患率は下がる。食物繊維の多い、丸ごとの(未精製・素加工の)植物性食品は糖尿病を予防する。2型糖尿病の場合、食生活の改善だけでインスリン投与をやめることができる。
○自己免疫疾患・・・例えば1型糖尿病の場合、赤ちゃんを早い時期から粉ミルクで育てると、十分に消化されていない牛乳の蛋白質の断片が腸から吸収されることがある。体の免疫機構はその蛋白質の断片を異物として攻撃する。
しかし、その蛋白質の断片の中には、膵臓のインシュリンを合成する蛋白質と見分けがつかないものがある。
免疫機構はこの膵臓の蛋白質をも異物と間違い攻撃する。その結果、子供はインシュリンの製造能力を失い1型糖尿病となる。
多発性硬化症は牛乳やビタミンDとの関係が示唆されているが、明確には証明されていない。
しかし、食生活を植物性のものに変えると、進行は緩和する。他のいくつかの自己免疫疾患でも、植物性食品の効果が報告されている。
○骨粗鬆症・・・牛乳の摂取量の多い欧米、オーストラリア、ニュージーランドでは、骨粗鬆症が多い。動物性蛋白質の摂取と骨折率には強い相関がある。動物性蛋白質を植物性蛋白質の1/10しか摂取していない中国農村部では、骨折率は米国の1/5である。
牛乳や動物性蛋白質を摂取すると体は酸性化する。
体にとって酸性は好ましくないので、骨のカルシウムを溶かして体を弱アルカリ性にする。血液中に溶け出たカルシウムは、腎臓を通して尿として排泄される。
その結果、骨がもろくなる。また、牛乳のようにカルシウムの多い食品を長期間取り続けると、体のカルシウム調節機構が崩壊する。そうなると閉経後の骨粗鬆症につながる。
以上、この本の中巻ではこれらの内容がデータや科学的根拠を示しながら詳しく説明されています。
そして、これら多くの病気がプラントベースでホールフードの食事に変えるだけで緩和または解消するとされています。
しかし、こうした情報は、国民に十分には知らされていません。
この本の下巻では、このような国民にとって有益な研究が、どうして、またどのような手法で隠されてきたかが述べられています。こにたんは現在50代半ばですが、われわれ世代の人はテレビなどを通じて、アメリカは自由で正義のある、かっこいい国というイメージを刷り込まれてきました。
でも、この年になっていろいろと勉強してくると、それはただのプロパガンダに過ぎないことがわかってきました。
今回の本もそのことを再認識させる内容でした。それとともに、キャンベル博士のような立派な人がアメリカには依然として健在だということもわかりました。
また、この本の註釈には日本の実情が付記されており、それを読めば徐々にアメリカの実情に近づいていることがわかります。現在は長寿大国と言われている日本ですが、このままの食生活が続けば、日本はそう遠くない間にその地位を失ってしまうかもしれません。
みなさんもぜひともこの本を手に取られ、ご自分の人生を有意義なものにされんことを願っています。
なお、こにたんは先日5年ぶりの人間ドックに入り、その結果すべての数値が正常だと告げられました。
ベジタリアンになってまだ日は浅いですが、体重も減っているし、それなりに効果はあったのでしょう。
昔、友人から言われました。
「健康がすべてではない。しかし、健康がなければすべてはない。」
やはり、健康はすべての活動のもとであり、これからも正しい知識のもとで健康を維持していこうと考えています。

 

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