平成26年1月5日

「秀丸エディタ」を音声化してみた

 

皆様、明けましておめでとうございます。
年が明けて、最初に書く文書の冒頭に新しい年を入れると、ちょっと改まった、何となく新鮮な気分を感じます。平成に入ってもう26年目になるんですね。早いものです。平成といえば、昭和62年に色変と診断されたこにたんにとって、徐々に視力が衰えていった時代でありあまりよい印象はありません。よかったことといえば、今の妻と知り合ったことぐらいでしょうか。
さて、このコラムも3年目に入りました。月に1本はと思いつつ、昨年の暮れには妻の手伝いで時間が取られてしまい、ついに年が明けてしまいました。妻の手伝いというのは、活動が停滞していたあるグループが、会の活性化のためにホームページを立ち上げるというので、その仕事を妻が引き受けてきたのです。妻にはWebページを作る技術はありませんので、やるのはもちろんこにたんです。妻の安請け合いはいつものことです。それもボランティアです。どこかの会社の技術屋が、営業マンに「仕事を取ってくるのはいいけど、もっと実入りのいい仕事を取ってこいよなあ・・・」とぼやいてる、そんな心境です。もっと夫をいたわってほしいものです。
しかも、こにたんは盲人です。一応プログラマーを肩書きにしていますが、何でもできるわけではありません。会社の仕事は、最近ではVisualBasicというプログラム言語だけで片付くものばかりなので、その他のプログラム言語やWeb技術のほうはあまり勉強していません。一応、「やるのは主人なので、あまり凝ったページはできません」との了承を取り付けてくれてはいるようですが、個人のページならともかく、それなりのステータスを持つ会のホームページです。だんだんと要求が増してくることは目に見えています。そのときになってあわてないようにもしなければなりません。ということで、昨年暮れには、ホームページを記述するためのHTML言語や装飾部分を切り出すためのCSSを勉強しなおすとともに、ホームページのテストページを作って会のメンバーに送るという仕事に追われていました。
ところで、この仕事を始める前に問題になったのが、ホームページを作るためのツールを何にするかでした。これが晴眼者なら、一般に普及している定評のあるツールを選べばよいのでしょうが、視覚障碍者にはそうはいきません。必ず、音声で使えるかどうかということがひっかかってきます。そこで、昔使っていたマイクロソフトの「FrontPage」が音声でそこそこ使えたことを思い出し、ネットで調べてみると、このツールは「Expression Web」に名前が変わり、今では無料となっているとか。さっそくダウンロードして使ってみましたが、駄目でした。メニューやダイアログなどは読み上げられるものの、肝心要のHTMLを書くためのエディタ部分が全く読み上げられません。以前にご紹介したフリーのスクリーンリーダーである「NVDA」でもだめでした。何とか自分で音声化できないものかと内部を調べてみましたが、ちょっと見た感じでは難しそうでした。ツールはそのほかにもいろいろありますが、有償のものは買って駄目だったら無駄になります。またblog形式やワープロ感覚でページを作成できるサービスもありますが、便利さの反面、不自由さはまぬかれません。そこで原点に立ち返り、テキストエディタで一からHTMLを書くことにしました。
テキストエディタとは、Windowsでいうならば、「メモ帳」のことで、装飾のない文字だけの文書を効率よく作成するためのソフトです。HTMLもCSSも基本的にはテキストなので、一応テキストエディタさえあれば何とかなります。テキストエディタといえば、昔のDOSの時代には、こにたんはMIFESというテキストエディタを使ってプログラムしていました。このエディタは、カーソル位置を縦・横の十字の線のクロスした位置で示してくれるという優れもので、視力が落ちてカーソルを見失いがちになっていたこにたんにも使いやすいエディタでした。Windowsの時代になると「秀丸エディタ」というシェアウエア(有償のオンラインソフト)に乗り換えました。このエディタも大変使いやすいものでしたが、開発ツールがVisualStudioという高機能なものに変わっていったため、徐々にエディタでプログラミングすることもなくなってしまいました。
今回のホームページでは、とりあえずということで、メモ帳でテストページを作りましたが、本格的に作業を始めるには、メモ帳ではつらいものがあります。そこで、昔使っていた秀丸エディタにお世話になることにしました。秀丸エディタのホームページから、新しいバージョンをダウンロードしてインストールしてみます。ホームページの説明では、機能もだいぶ増えているようで期待が持てます。秀丸を立ち上げ、どきどきしながら文字を打ってみると、音声が聞こえてきません。がっくりです。昔は文字サイズを大きくしたり、背景をダークグリーンにしたりして使っていましたが、ほぼ全盲となった今では、スクリーンリーダーの助けなしにはなんともなりません。しかし、秀丸エディタには強力なマクロ機能があるのでひょっとしてと思ってネットで調べてみると、ありましたありました。秀丸を音声化するマクロが2つ見つかりました。ところが残念なことに、この2つはいずれも満足なものではありませんでした。音声化が不完全で、反応も遅く、これでは秀丸の軽快さが台無しです。でも、一応一部にしろ音声化できているということは、頑張れば何とかなるかもしれません。そこで自分で秀丸を音声化してみることにしました。こにたんにはこれまでVisualStudio、PowerPoint、Windowsの一部機能などを音声化した経験がありますので、たぶん大丈夫でしょう。
そういうことで、年末年始の休みに田舎に引きこもり、日本酒をちびりちびりやりながら、秀丸エディタの音声化に挑戦しました。秀丸のマクロはCというプログラム言語に似た構文となっており、本格的にCでプログラムした経験のないこにたんには戸惑いもありましたが、サンプルのマクロを参考に、見よう見まねでプログラムしていきました。どういうわけか、実家のテレビがアンテナかブースターの調子が悪くなり、全滅してしまいました。おふくろはつまらない正月になったと文句を言っていましたが、こちらは紅白も正月番組も見ず、秀丸の音声化に没頭できました。4日ほどかかって、できましたできました。何とか使用に耐える秀丸の音声化ができあがりました。このコラムも自作の「秀たんリーダー(仮称)」で書いています。特別な技を使ったわけではありませんが、秀丸の軽快さを殺さずに、音声化することができました。キー操作は、愛用している「XP Reader」のWord読み上げを踏襲しています。ただ、Wordでは、Shiftを押しながら範囲選択し、Shiftを離すと選択範囲を読んでくれる機能がありますが、これは実現できませんでした(選択するところまでは読み上げるが、Shiftキーを離すときの読みが実現できない)。これは、すべてのキーストロークを監視できるわけではないという秀丸側の限界なので、しかたありません。もう少し勉強すれば何かの方策が見つかるかもしれませんが、当面はCtrl+Cによりクリップボード経由で読み上げさせることで代用したいと思います。
さて、こうしてエディタは確保できました。以前、会社でHTMLを少しいじっていたときに作った、どのタグ(Webページを作るための部品のようなもの)がどのような階層でどの位置にあり、どのような装飾が施されているかを解析するツールなどもインストールし、準備はできました。また、CSSで作ったWebページのテンプレート(装飾部分を切り出して別ファイルにしたもの)もネットにはたくさんあります。その中で著作権上問題のないものを選び、小さな装飾を修正して、何とか全盲のこにたんでもメンテナンスできそうなページが仕上がりました。見た目のデザインやセンスはこにたんにはどうにもならないので、このテンプレートには助けられました。最終的には妻に見た目をチェックしてもらわないといけませんが、軌道に乗れば追加・修正は簡単そうです。以前に、視覚障碍者が作ったページをいくつか見たことがあり、そのときは「目が見えないのにホームページを作るなんて、根性あるなあ」と思っていました。が、今回はCSSテンプレートのおかげでしょうか、やってみると意外に簡単でした。このままシンプルさを崩さないようにすれば、こにたんでもメンテナンスしていけそうです。
秀丸エディタには高度な検索や置換機能があり、まだまだ勉強中ですが、これらをうまく使えば、通常の作業はらくらくできそうです。また、さらにマクロでプログラムすることで、新しい機能の追加も可能です。昔の職人は道具を自分で作ったといいますが、秀丸はまさにそれにうってつけのテキストエディタといえるでしょう。
今回のコラムは、ちょっと専門的になりましたが昔の彼女に出会ったようなうれしさも手伝って、秀丸エディタの音声化についてご紹介いたしました。何かの参考になれば幸いです。

 

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