平成25年8月25日

 

 

NVDAを使ってみた

 

今年の後半、会社のパソコンが新しくなります。何とかと畳表とパソコンは新しいほうがいい(?)とか言いますし、そのこと自体はこにたんも歓迎するところです。が、しかし今回はOSがWindows XPから7に、Officeが2003から2010になり、心配なのは今使っているスクリーンリーダーのXPReaderが問題なく動いてくれるかです。自宅ではWindows 7でXPReaderが動いているので、いろいろ問題はあるものの一応この組み合わせで使えることはわかっていますが、会社のパソコンはセキュリティの設定が厳しくなっています。このため、実際にやってみないとどうなるかはわかりません。それからこにたんは会社でシステム作りをしていますので、過去に開発したシステムが、新しいパソコンで動くかどうかも検証しなければなりません。そのため、先月から新導入パソコンを事前に借り受け、テストを行っています。その過程でフリーのスクリーンリーダーであるNVDAを使ってみましたので、今回のコラムではその感想などをレポートします。
さて、7月の某日、情報システム部に依頼していたおニューのパソコンが届きました。今回は東芝製のパソコンです。手垢に汚れていないパソコンを触るのは気持ちがいいです。ちょっとうきうきしながら電源を入れ、さっそくXPReaderのCDをCDドライブにセットしました。が・・・、いつもの「XPReaderをインストールします」という声が聞こえてきません。どうやらCDドライブの自動実行がoffになっているようです。スクリーンリーダーが入らなければ、ほぼ全盲のこにたんにはどうしようもないので、当社の若手のホープに援助を求めました。そしてCDのファイルの中から「Install。exe」を起動してもらうと、XPReaderの聞きなれた声が聞こえてきて一安心。さあ、インストール開始です。しかあし、途中でエラーが・・・。ホープ君にエラーの内容を読んでもらうと、何かのファイルのオープンに失敗したとか。これまで永年XPReaderを使ってきて、このようなエラーは初めてです。その後何度かトライするものの、結果は同じでした。どうしよう。XPReaderが入らなければ、検証作業は先に進めません。恐らく原因はセキュリティソフトだと思いますが、その原因調査も対策も音声が出なければ何ともしようがありません。そこで、フリーのスクリーンリーダーであるNVDAを入れてみることにした次第です。なおNVDAとは「NonVisual Desktop Access」の略で、2006年にオーストラリアの盲人プログラマーであるMichael Curran氏とJames Teh氏が中心となって立ち上げたプロジェクトで、日本では西本 卓也氏をはじめとする数人のプログラマが精力的に作業をしています。
さて、NVDAの入手ですが、会社ではインターネットからソフトウェアをダウンロードすることはできなくなっています。また、自宅でダウンロードしたソフトウェアを使うことも禁止になっています。しかし、今回はテストということで、ネットワークにつなぐ以外は何をしてもよいと言われているので、NVDAは自宅でダウンロードし、CD-Rに焼いて翌日会社に持ち込みました。昨日のホープ君に頼んで、早速インストールしてもらいます。女性の甲高い声がし、今回は問題なく完了しました。パソコンを再起動してみると、NVDAはWindowsのログイン画面を読んでくれます。XPReaderでは、この部分は音声化されないので、ちょっと感動です。
喜びもつかの間、パスワードを入力してログインすると、「デスクトップ・・・」と読んだあと、声がしなくなりました。何度再起動してみても同じです。ここでまたまた不安に・・・。NVDAはWindows 7に対応しているはずなのに、変です。しかたがないのでCDに焼いておいたポータブル版のNVDAを、またまたホープ君に頼んで起動してもらいます。そしてヘルプを調べ、設定を見ていたら、「Windowsへのログオン後にNVDAを自動的に開始する」という設定がoffになっていました。これをonにしてパソコンを再起動すると、今度は問題なくログイン後にもNVDAの声が聞こえてきました。しかし、何でこの設定がデフォルトでoffになっているのでしょうか。ちょっと理解できません。なお、NVDAのポータブル版とは、NVDAをインストールすることなく、ICメモリなどから起動できるバージョンのことで、これはスクリーンリーダーが入っていないマシンを一時的に音声化する場合などに大変便利です。
こうしてNVDAのインストールで出鼻をくじかれたこにたんですが、ま、しかし当面の問題は解決したので、よしとしましょう。次はNVDAの使い方をマスターしなければなりません。マニュアルを読むと、「NVDAキー+N」で設定等のメニューが出るようです。ここで「NVDAキー」とは、このキーと別のキーを合わせて押すことで、NVDA固有の機能を実行できるようにするキーで、日本語版の場合、「無変換」キーに割り当てられているようです。でも、「無変換」キーを本来の目的に使うにはどうしたらいいのかと疑問に思って調べてみると、このキーを2度押しすると本来の機能となるとか。こにたんは「無変換」キーを比較的よく使うのでちょっと不便に感じますが、そんな時にはNVDAキーとして「変換」キーなども使えるようです。
さて、設定のうちでまずは音声を何とかしなければなりません。NVDAにはフリーの音声エンジンであるJTalkが付属しています。この音声エンジンは、名古屋工業大学の先生らが開発しているもので、音質はまずまずです。しかし、音声には慣れが必要で、こにたんの耳は完全にXPReader用になっており、JTalkの音声には違和感を感じます。特にひらがなを1文字だけ読ませたときに感じる爆発するような音圧は、日本語らしくありません。その他、改善すべき事項は数多くありますが、フリーということで、文句を言ってもしかたありません。今後の進化を期待したいところです。しかし、JTalkの聞きづらさも、スピードや抑揚の設定などをいじると、少しよくなりました。
NVDAでは、捜査にテンキーを多用するようですが、ノートパソコンにはテンキーがありません。このため、キーボードレイアウトの設定を「ラップトップ」に変更します。これにより、テンキーの代替キーを使うことができるようになります。また、こにたんはマウスは使いませんので、マウスの追跡はoffにします。マウス設定の中には、「マウス位置をビープ音で通知」という面白そうな機能もあります。これはマウスの位置を上下は音の高さで、左右は音の左右の位置で表現するものです。この機能は、画面レイアウトの物理的イメージを確認したい場合などに役に立つと思います。しかし、マウスが動くとブーブーうるさいので、これもoffにしておきます。
次にオブジェクト関係の設定です。NVDAを使い始めて感じるのは、よくしゃべるということです。メニューやツールバー、リボン、ダイアログボックスなどのボタンやテキストボックスなどのオブジェクトにフォーカスを移すと、オブジェクトの名前、役割のほかにショートカットキーや説明まで読んでくれます。これは、新しいソフトを使い始める際には有効ですが、既に使い慣れたソフトの場合には、過剰な情報です。そのため、これらはいずれもoffにし、必要な時のみに使用することにします。また、ちょっと面白い機能に「オブジェクト位置情報の通知」というものがあります。これはメニューなどで現在選択されている項目が全体の何番目に存在するかを知らせてくれる機能です。ただこれも、慣れてくるに従いうっとおしくなり、やはりoffにしました。
これで、こにたんのNVDAは、初期設定に比べずいぶんと使いやすくなりました・・・と思ったら、知らずしらずにXPReaderの読みに近づけていっていたことに気づきました。慣れとは恐ろしいものです。なお、新導入パソコンへのXPReaderのインストールですが、NVDAが何とか使えるようになってから、エラーの原因を探ろうと再度インストールを試みたところ、何度目かにインストールに成功しました。エラーの原因は、パソコンの最初の起動後しばらくはセキュリティソフトが忙しく動いているので、それとXPReaderのインストール処理とがバッティングしたものと推測しています。
さて、NVDAを約1か月使ってみての感想ですが、まず感じるのは、フリーにしてはよくできているということです。
特にブラウズモードで、見出し、リンク、リスト、テーブル、テキストボックス、ボタン等の要素ごとにキーひとつでジャンプする機能や、ページ全体の見出しをツリー形式でリストアップしてナビゲートできる機能、テーブルのセルを上下左右に移動できる機能などはXPReaderにはなく、これまで不満に感じていた部分だけに、大変気に入りました。
また、XPReaderは現行のV6。0が発売されて以降10年以上もバージョンアップがなされておらず、OSや新しいアプリが登場するごとに、読まれない部分が増えてきました。こにたんは一応プログラマーなので、XPReaderを拡張するプログラムを作って、こうした問題に対処していました。しかし、NVDAはさすがに現在開発進行中のスクリーンリーダーだけに、読まない部分はあまりないようです。また、オブジェクトとオブジェクトの間のフォーカスが当たらない部分の情報を読ませる機能、キーボードでフォーカスを移すことができない部分を操作する機能、オブジェクトが画面のどの辺にあるかを知らせてくれる機能などは、こにたん自作のXPReader拡張版にも用意していたものなので、NVDAにこれらの機能を発見したときにはちょっとうれしくなりました。
以上、ここまでNVDAを使ってみての感想などを書いてきました。こにたんは数年前にもNVDAを試したことがありますが、その頃に比較して現在のものは格段に進歩しています。しかし、だからといってXPReaderを捨ててNVDAに乗り換えられるかと言えば、そうはいきません。XPReaderは反応が早く、動作が軽快で、これは文章を書いたり、ネットを見たりする日常の作業をする上でこの上ないメリットです。これに対し、NVDAはややもたもたした感じがします。これは、NVDAがマイクロソフトが定めた標準の仕組みで機能を実現していることによる副作用であり、またNVDAは標準を重んじ特殊な処理を入れないのがポリシーのようなのでしかたがないことです。キーを押して音声が出力されるまでの差は、ほんの0。1秒か0。2秒ほどだとは思いますが、その差はスクリーンリーダの好感度を大きく左右します。また、上にも書いた通り、こにたんの耳は、XPReaderの音声に慣れ過ぎています。要するに、こにたんにとってのXPReaderは耳の一部、目の全部、手の一部になっており、空気のような存在です。そのため今では何も考えることなくパソコンを操作できています。また、NVDAはまだ少し不安定で、いくつかの問題点や追加すべき機能も残っています。これらのことから、こにたんにとって当面NVDAはXPReaderが読まない部分を確認するために補助的に使うツールとなるでしょう。

しかし、将来は音声合成エンジンが進化し、パソコンの性能向上とあいまって、NVDAがXPReaderを完全に超える時期が来るかもしれません。そういう時代が一日も早く来ること、そしてわれわれ視覚障碍者が特別の出費を支払うことなく晴眼者と同じテクノロジーの恩恵を得られるようになることを願っています。最後になりますが、ボランティアでNVDAの開発にあたっておられる多くの皆様に、深甚なる敬意と大きな声援と感謝の気持ちを贈りたいと思います

 

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